2019/04/02
販促部門をプロフィットセンターに変える方法
株式会社SPinno 代表取締役COO 木村 祐作

紙什器やポスターなど店頭を飾るPOP広告。「新装開店キャンペーンだ」「新商品の投入だ」と、販促部門はその企画・製作発注・管理などの業務に忙殺されている。一方で、経営サイドからは「コストセンター」と見なされ、「もっと安くつくれ」と厳しいお達し。「これじゃ仕事に誇りをもてない」とグチが出る──。そんな状況から抜け出し、「販促部門を、売上を上げるセクションに変える方法がある」と指摘するのは、店舗展開している企業や大手消費財メーカーなどの業務効率化を支援してきたSPinno(スピーノ)の代表取締役COO、木村氏 だ。販促部門をプロフィットセンター化する方法について、同氏に聞いた。
課題そのものが見えづらい
── 多くの店舗を展開する企業や大手の消費財メーカーは、多額の予算を投じて、大量の販促物を製作しています。コスト削減のためのよい方法を教えてください。
はい、方法はあります。ただし、ちょっと待ってください。その話をする前に、「真っ先に取り組むべき課題は、コスト削減なのでしょうか?」と尋ねたいですね。というのも、そもそも販促物の効果検証がなされておらず、販促業務については「なにが課題なのかが見えていない」という企業が大半です。たとえば「新商品Aの販促に製作会社Bをつかった紙什器を予算40万円でつくって全店舗に配布した」というケース。検証したいことはたくさんあります。
「そもそもAの販促にPOPは必要だったのか? つくらなかったら売上は減ったのか?」「違う製作会社に依頼していたら、コストパフォーマンスはどう変わったのか?」「紙什器でよかったのか? ポスターだったらどうだったのか?」「本部でつくって配布するのではなく、個々の店舗でそれぞれつくらせたらどうなっただろう?」などなど。紙什器のデザインの違いや、各店舗の紙什器の掲示の仕方の違いで、どれだけ効果が違ったのかも検証したいところです。
でも、それをやっている企業はほとんどありません。ただ、「40万円の予算でつくった」というのはわかりやすい。だから、「次回は38万円でつくろう」と。でも、それが本当に取り組むべきことなのか、疑問ですよね。
── 確かにそうですね。ならば、販促部門の担当者から「効果を検証しましょう」という意見具申が出ているのではないでしょうか。
そういうケースは数少ないのが実情です。販促部門は通常業務に忙殺されていて、戦略的なことを考えられる余裕がないからです。いまの世の中、あらゆる分野でこれだけシステム化が進んでいるにもかかわらず、販促物の製作業務は「アナログ体質」のまま。たとえば、現場からの製作依頼を本部が受ける手段が決められていない。ある店舗は電話だったり、同じ店舗の別の人からはメールだったり、別の店舗からは手書きのメモだったりする。それらをまとめるだけでも、大変な手間がかかっています。
それからやっと、販促物の製作を製作会社に依頼します。そのデザイン案や見積もりを受け取り、ときには現場に回して確認をとらないといけない。ここでも多大な手間をかけています。結局、販促物は「あるのが当たり前」「つくるのが当たり前」だったので、これまで効果検証も業務効率化もしてこなかった。ひたすら現場の業務が忙しくなり、コスト削減の要求は強くなる。そのツケが回ってきている状況です。
システム導入して課題を見える化せよ
── なにか、八方ふさがりのように見えます。
打開する方法はあります。販促物の業務フローを一元管理できるシステムを導入することです。販促物製作にかかわる現場・本部・製作会社というプレイヤー間のやりとりをすべてクラウド上で行い、履歴(ログ)を蓄積するのです。
すると、いま、ある販促物の製作業務のステータスがどこで、誰がボールをもっていて、どのような状態にあるのかが、ひとめでわかります。また、その販促物がどこの店舗で、どれだけ使用され、オーダー数はどれほどだったのかも。システムのなかにデータが残るので、それが新たな販促物をつくる際の判断材料になります。冒頭の質問に戻ると、「コスト削減のためのよい方法」のひとつにもなります。
── 詳しく教えてください。
たとえば、本部が良かれと思って考案したものの、現場のニーズが少ない販促物があったとしましょう。そのような販促物であっても、これまではすべて製作してすべて現場に送り込むケースが多かった。それらの販促物が現場のストックルームでほこりをかぶっていて、年末に破棄したり。そんなことが慢性的に続いていれば、保管費用や廃棄費用だってかさみます。システム化によって「この販促物は使われなかった」という記録が残れば、それを参照することで次に同様の事態が起こることを防げる。ムダなコストを抑制できるのです。
また、各店舗によって売り場の広さも違えばユーザーの年齢層も違っています。であれば、店舗によって伝えたいメッセージやツールは異なるはず。なのに、これまでは本部で同じものを製作し、送り込んでいました。そのほうがコストダウンになりますから。でも、効果がないものをつくるのは、それ以上にムダなコストといえます。システムを活用すれば、本部が一括で発注しつつ、各店舗に対応したデザインに画面上で編集することが可能です。各店舗からのプラスアルファの要望にもこたえられるようになるのです。
導入するならベンダーフリーのシステムを
── 店舗ごとに発注して製作するケースには対応できますか。
可能です。それぞれの店舗の業務フローを本部で管理することができるので、ムダな発注をしていれば制止できます。また、ある店舗が独自に製作したものを他店舗も見ることができますから、「あの店舗の販促物をうちの店舗でも使いたい」という声があれば、販促物の発注数量を増やせばいいわけです。
── 導入すべきシステムの選び方の基準を教えてください。
「販促業務に特化していること」と「ベンダーフリー」であることです。「販促業務の効率化になる」とうたわれていても、販促業務独特のフローや用語を理解していないために使い勝手が悪いシステムもあります。また、特定の製作会社のつくったシステムで、その会社へ依頼する場合にしか使えないものもあるので、要注意です。
時間短縮と負荷削減を実現
── 成功事例を聞かせてください。
全国に200店舗を超えるアミューズメント施設を展開している、大手アミューズメント企業様の例をご紹介します。同社では元々、地域ごとに特化した販促施策を打つために、販促物の製作を各店舗に任せていました。その結果、販促物の種類も量も膨大になり、クオリティやコンプライアンス管理ができない状態に、本部のご担当者様が頭を悩ませていらっしゃいました。
そこで、システムをご導入頂き、これまで各店舗がバラバラに行っていた販促物の製作・受発注フローをシステムを通して回すように改善したところ、「どの店舗が」「どのような販促物を」「どれだけ使っているか」が見られるようになり、本部による全体の販促物管理ができるようになりました。
また、店舗での業務においても、今までは一から製作していた販促物を、テンプレートから少し変更するだけで作成できるようにすることで、大幅な工数削減が実現しました。更に、日々製作している販促物の総量とコストを販促担当者が見るようになったことで、適切な販促物量を意識できるようになり、製作コストの削減につながりました。
── 販促部門の業務負荷が軽減した事例を教えてください。
はい。大手消費財メーカー様の例です。そこでは、各店舗の倉庫から電話やメールで依頼を受けて販促物をつくっていました。本部の人員は2人でしたから、各店舗からの依頼をさばくだけで大仕事でした。システムを導入したことにより、すべてのやり取りがシステム上で処理できるようになったので、本部の2人の業務時間が合計で約20%削減されました。
それに、各タスクの終了ごとにそのエビデンスがデータとして残るので、抜け漏れなどによるミスやトラブルが減る効果もありました。さらに、保管・破棄費用が発生した販促物は、以後、過剰につくらないようにし、店舗から注文があった場合にだけ製作するようにしたので、保管・破棄費用が削減されました。これらにより、2年目からは12%のコスト削減効果 が出ているそうです。
強い意志を持って業務に変革を
── 最後に、「販促コストを抑えつつ、繁盛店をつくりたい」と考えている経営者・マーケティング担当者・販促担当者にアドバイスをください。
「販促活動は売上向上に貢献する活動だ」という認識をもって、いまの課題と向き合ってください。「変えよう」という想いをもっている方なら、現状を変えられます。システムは、販促業務に変革をもたらすツールのひとつ。使う方の気持ちが高まっていないと、「システムを導入して終わり」になってしまいます。逆に、販促部門の方に「情報を共有したり、みんなで同じ目的をもって業務に取り組みたい」という想いがあるならば、システムが貢献できる部分は大きくなってきます。
あなたが立ち上がらないと、これからもずっといまのままです。でも、立ち上がりさえすれば、業務負荷を大きく減らし、販促物の効果を検証し、売上を上げることに直結する部署、つまりプロフィットセンターになれるのです。私たちは、そのお手伝いができればと思っています。