2018/02/14
マーケティングオートメーション導入が必ず失敗する理由
株式会社エイジア 経営企画室長 藤田 雅志

個々の潜在顧客に向け、最適なタイミングで最適なコンテンツを最適なチャネルで自動配信。One to Oneマーケティングに必要となる複雑な業務をなくし、売上を伸ばせるツールとして、マーケティングオートメーション(以下、MA)が脚光を浴びている。しかし、実際に期待通りの効果をあげている導入事例はそれほど多くない。なぜ、失敗するケースがあとを絶たないのか。4,000社以上のWebマーケティングを支援してきた実績をもつ東証一部上場企業、エイジアの経営企画室長の藤田氏に、Webマーケティングのツールを使いこなし、業務を効率化しながら売上を伸ばす方法について聞いた。
高価なツールがホコリをかぶっている
── ECを手がける企業のマーケティング担当者やサイト運営担当者の業務負担を軽くし、売上を伸ばすツールとしてMAが注目されていますね。
ええ。たとえばアパレルで、後発組なのでリアル店舗では既存の有名ブランドにはなかなか勝てずにいた。そこでECにチカラを入れて逆転をねらう。そういった企業がさかんに導入しています。逆に既存の有名ブランドはリアル店舗でのマーケティングノウハウは豊富だが、デジタルマーケティングの領域ではそうでもない。そんな競争関係の中で勝てる領域であるデジタルマーケティングを強化して今や競争関係は逆転しました。それを追いかける形で既存の有名ブランドはMAに期待しているわけです。
でも、「導入したはいいが“ホコリをかぶっている”」ところが多いですよ。稼働していないんです。
でも、「導入したはいいが“ホコリをかぶっている”」ところが多いですよ。稼働していないんです。
── えっ。それはどうしてですか。
まず、稼働前の準備段階で挫折してしまい、そもそも(MAの機能を充分に)使うまでにいたらなかったケースが少なくない。そして、使ってみたものの、第一の目的である売上のアップに期待ほどにはつながらなかった例が非常に多くあります。
さらに、第二の目的であるマーケティング担当者やサイト運営担当者の業務効率化も、「思ったほど進まなかった」という担当者が大半。そのため、ツールを使うのをやめて、放置してしまっている会社が多いんです。
さらに、第二の目的であるマーケティング担当者やサイト運営担当者の業務効率化も、「思ったほど進まなかった」という担当者が大半。そのため、ツールを使うのをやめて、放置してしまっている会社が多いんです。
メルマガ一斉送信の効果はどんどん落ちる
── どうして失敗してしまうのでしょう。
失敗例には大きく5つのパターンがあります。
まず「初期準備が大変すぎて、稼働させる前に挫折してしまった」パターン。MAを使いこなすには、これまでのWebサイトへのユーザー閲覧履歴や購入履歴、登録してもらった属性などのデータを分析し、ユーザーが商品の購入にいたるまでのロードマップ、つまり「カスタマージャーニー」を作成する必要があります。これが大変な手間がかかるんです。ツールの販売元であるベンダーは、その作成まではやってくれませんから。
ある企業でそれを担当することになったスタッフが、「これは“死のロードマップ”だな」といっていました。その人は非常に高いITリテラシーをもつ方なんですが膨大な業務量を前にして、作成に二の足を踏む。結果、MAツールを稼働させるまでにいたらない、というわけです。
ある企業でそれを担当することになったスタッフが、「これは“死のロードマップ”だな」といっていました。その人は非常に高いITリテラシーをもつ方なんですが膨大な業務量を前にして、作成に二の足を踏む。結果、MAツールを稼働させるまでにいたらない、というわけです。
── なるほど。では、そのハードルを乗り越えて、MAツールを使い始めたにもかかわらず、失敗してしまうパターンを教えてください。
ハードルを乗り越えたと言えないと思いますが「メールを一斉配信している」パターンですね。そもそもMAとはOne to Oneマーケティングをより効率的に行うためのツール。メルマガを一斉配信しているというのは従来型のマスマーケティングの手法で、ツールを使いこなせていないのは明らか。典型的な失敗例です。
なぜそんなことが起こるのか。じつは、これも初期準備の大変さに起因するところが大きいんです。「メルマガを個別のユーザーごとに最適なタイミング、最適なコンテンツで送れる」のがMAの特徴。でも、この機能を発揮させるには、ユーザーデータを分析して、ユーザーの属性をセグメンテーションしておかなければいけない。この作業ができていないまま、MAをスタートさせてしまうので、一斉送信になってしまうんです。
ユーザーの個別の事情に関係なく送るものですから、一斉配信では送る回数が増えるにつれて効果がだんだん落ちていきます。横ばいではなく、落ちるんです。結果、担当者の業務量は変わらないのに、売上は下がってしまう。
なぜそんなことが起こるのか。じつは、これも初期準備の大変さに起因するところが大きいんです。「メルマガを個別のユーザーごとに最適なタイミング、最適なコンテンツで送れる」のがMAの特徴。でも、この機能を発揮させるには、ユーザーデータを分析して、ユーザーの属性をセグメンテーションしておかなければいけない。この作業ができていないまま、MAをスタートさせてしまうので、一斉送信になってしまうんです。
ユーザーの個別の事情に関係なく送るものですから、一斉配信では送る回数が増えるにつれて効果がだんだん落ちていきます。横ばいではなく、落ちるんです。結果、担当者の業務量は変わらないのに、売上は下がってしまう。
── メルマガのコンテンツが魅力的であれば、ユーザーをひきつけることができ、売上アップにつながるのではありませんか。
理屈はそうですが、魅力的なコンテンツを毎回毎回、担当者が作成するのは非常に困難です。多くの企業で、担当者が時間を多くさいている業務が「メルマガのコンテンツを作成すること」になってしまっています。コンテンツの制作に時間をかけてしまっていることが、MA導入の失敗パターンの3番目です。
ほとんどの場合、開封率を計測できるようにするため、『テキスト』ではなく『HTML』でメルマガのコンテンツを作成しています。『テキスト』に比べれば作成に手間がかかります。それに、一斉配信の場合、「すべてのユーザーが関心をもつコンテンツ」を作成しなければいけない。そんなネタはめったに見つからないので、あれこれ思案をめぐらせる。結果、作成に大変な時間をかけているんですが、売上アップにつながらないわけです。
ほとんどの場合、開封率を計測できるようにするため、『テキスト』ではなく『HTML』でメルマガのコンテンツを作成しています。『テキスト』に比べれば作成に手間がかかります。それに、一斉配信の場合、「すべてのユーザーが関心をもつコンテンツ」を作成しなければいけない。そんなネタはめったに見つからないので、あれこれ思案をめぐらせる。結果、作成に大変な時間をかけているんですが、売上アップにつながらないわけです。
効果を検証せずに同じ作業を繰り返す
── 4番目と5番目の失敗パターンを教えてください。
4番目は「施策の効果を検証できていない」。そして5番目が「どんな施策なら効果があるのかわからない」。どちらにせよ、結果としては、担当者が同じ作業を繰り返すだけになってしまう。PDCAサイクルを回して改善していくことができていないわけですから。担当者の本来の業務は、なにか施策を打ったらその効果を検証して、よりよい施策へと改善していくこと。ところが、現状では「メルマガを作成して配信することを繰り返す」のが業務になってしまっているんです。
── だから業務負荷は重たいままなのに、売上は上がらない、と。どうしたら、そんな泥沼から脱出できるのでしょう。
MAをスモールスタートすることをオススメします。ユーザーデータを精緻に分析し、精密なカスタマージャーニーを作成し、それに基づいた最適なマーケティング施策のシナリオを企画する。これは確かに膨大な業務量を必要とする。そこで、最小限の業務量で始められることから始めましょう、ということです。
じつは、マーケティング施策のシナリオには、ほとんどの場合に適合する「鉄板シナリオ」が存在します。たとえば、「ECサイトで、ある商品をいったんカートに入れたが、購入にはいたらなかった」ユーザーには、「購入をお忘れではありませんか?」というメールを送る。さらに在庫切れが近くなったタイミングで、「もうすぐ売り切れそうです」と案内するメールを送る。また、「商品紹介ページを閲覧した後、他社のより安価な競合商品のページへ移動し、自社商品は買わなかった」ユーザーには、その商品の特売セールのタイミングで案内メールを送る。といった具合です。
じつは、マーケティング施策のシナリオには、ほとんどの場合に適合する「鉄板シナリオ」が存在します。たとえば、「ECサイトで、ある商品をいったんカートに入れたが、購入にはいたらなかった」ユーザーには、「購入をお忘れではありませんか?」というメールを送る。さらに在庫切れが近くなったタイミングで、「もうすぐ売り切れそうです」と案内するメールを送る。また、「商品紹介ページを閲覧した後、他社のより安価な競合商品のページへ移動し、自社商品は買わなかった」ユーザーには、その商品の特売セールのタイミングで案内メールを送る。といった具合です。
── すでに「できあがっている」ものを、自社に適用するわけですね。
そういうことです。鉄板シナリオを導入してMAをスタートさせ、その効果を検証しながら、より自社に適合するシナリオへと改善していけばいいのです。メルマガを作成し、配信する業務量は大幅に減りますから、担当者は効果の検証と施策の改善、新たな施策の企画という「本来の仕事」に専念できる。
たとえば当社が提供しているMAツール『WEBCAS』では、30の鉄板シナリオを用意。担当者の業務負荷の軽減と売上アップにつながることが支持され、これまでに4,000社以上に導入されています。
たとえば当社が提供しているMAツール『WEBCAS』では、30の鉄板シナリオを用意。担当者の業務負荷の軽減と売上アップにつながることが支持され、これまでに4,000社以上に導入されています。

サーバが危険なほど購入が殺到する
── 成功した事例を教えてください。
会員数約45万名を誇るファッションECサイト『StyleCruise』や全国270超のリアル店舗を運営し、服飾・雑貨・家具の企画・製造・販売・卸売を通してライフスタイルをトータルで提案している、ベイクルーズさんの例があります。以前は別のメール配信システムを使っていたそうですが、10万通のメールを送信するのに5~6時間かかり『テキスト』のメールしか送信できないため開封率を計測できないといった問題があったそうです。
そこで、自社の顧客データベースと直接連携し、データの変動にあわせて即時に対応するメールを『HTML』で送れる『WEBCAS』を導入するにいたりました。メールを送った数ではなく、ユーザーデータのレコード数に応じて課金する料金体系も、大量のメールを配信するベイクルーズさんにマッチしていました。
そこで、自社の顧客データベースと直接連携し、データの変動にあわせて即時に対応するメールを『HTML』で送れる『WEBCAS』を導入するにいたりました。メールを送った数ではなく、ユーザーデータのレコード数に応じて課金する料金体系も、大量のメールを配信するベイクルーズさんにマッチしていました。
── 導入後、どんな成果がありましたか。
PDCAを回し続けて施策を改善していった結果、導入3年目から4年目にかけて『StyleCruise』の売上が177%と大幅にアップする成果を上げました。同社ではユーザーを①優良顧客②通常顧客③新規顧客④見込み客⑤休眠顧客の5つにセグメント。最適なシナリオメールを50パターンほど用意して、自動的に送信しています。たとえば、「サイトに登録したが商品購入にはいたっていない」という見込み客の場合。閲覧履歴をもとにユーザーの関心の高い商品のレコメンドを内容とするメールを自動送信する、といった施策を打っています。その結果、商品購入にいたる率が非常に高まり、売上の大幅アップに貢献したのです。
また、サイトに新商品が掲載されると同時に、それを知らせる「新着メール」を送信しています。その効果はすさまじく、メール送信と同時に購入希望が殺到。サーバが落ちないように、インフラ強化の投資が必要になったほどだそうです。
また、サイトに新商品が掲載されると同時に、それを知らせる「新着メール」を送信しています。その効果はすさまじく、メール送信と同時に購入希望が殺到。サーバが落ちないように、インフラ強化の投資が必要になったほどだそうです。
── 「業務の効率化と売上アップを両立させたい」と考えているマーケティング担当者・サイト運営担当者にアドバイスをください。
まずは、メール配信の鉄板シナリオがどれぐらいできているか、自社のWebマーケティング施策をもういちど、見つめなおしてください。できていないのであれば、MAを使いこなせていないあかしです。鉄板シナリオを導入することで業務を自動化し、売上を伸ばす余地が大いにあることを知っていただきたいですね。
鉄板シナリオを導入して、MAをスタートさせたら、PDCAサイクルを回すことができます。担当者は「メールを作成し、配信する」業務から解放され、施策の改善に取り組めるはず。そのなかで、配信するメール配信のコンテンツのレベルを高め、より自社の状況に適合するように磨いていけばいいのです。
それができたら、メール以外のコミュニケーション手段も含めて、自社からの情報発信施策を統合し、より強いブランドにしていくことです。ありがちなのが商品・サービスにかんする情報発信はマーケティング部門、企業にかんする情報発信は広報部門が担当していて、発するブランドイメージがバラバラ、というケース。こうしたズレを解消し、統一したブランドをつくるためにも、Webマーケティング担当者が「メールを作成して配信する作業を繰りかえす」日常から解放される必要があるのです。
鉄板シナリオを導入して、MAをスタートさせたら、PDCAサイクルを回すことができます。担当者は「メールを作成し、配信する」業務から解放され、施策の改善に取り組めるはず。そのなかで、配信するメール配信のコンテンツのレベルを高め、より自社の状況に適合するように磨いていけばいいのです。
それができたら、メール以外のコミュニケーション手段も含めて、自社からの情報発信施策を統合し、より強いブランドにしていくことです。ありがちなのが商品・サービスにかんする情報発信はマーケティング部門、企業にかんする情報発信は広報部門が担当していて、発するブランドイメージがバラバラ、というケース。こうしたズレを解消し、統一したブランドをつくるためにも、Webマーケティング担当者が「メールを作成して配信する作業を繰りかえす」日常から解放される必要があるのです。